有望市場には危険がいっぱい
私がソニーに在籍しているときに、「未来の有望市場探し」をしたことがあります。
将来有望な市場や事業は何かを探索し、会社の上層部に提案する仕事です。
上司に言われて、こんな感じで調べました。
「まだ大きな市場にはなっていないが、伸びつつある分野は何か?」
「急激に開発が進んでいる技術は何か?」
などの観点でいろいろと調べました。
この仕事を続けているうちに、次のようなことが分かりました。
急激に開発が進んでいる技術分野や、伸びつつある市場は、将来的に、より大きな市場を形成することが予想しやすいため、会社の上層部に提案すると、比較的受け入れられやすい傾向にあります。
しかし、このような方法で感じることができる「未来の有望市場」には危険性をはらんでいるのです。
急激に開発が進んでいる技術というのはニュース性があるため、メディアにもしばしば登場します。他社も注目している技術とも言えます。
また、大きな市場にはなっていないが、伸び始めている市場というのは、既に参入している企業があり、いまから準備しても遅い可能性があることを意味しています。
一般に“有望市場”と言われる分野は、誰が見ても有望に見えているがために、将来、レッドオーシャン(血まみれの戦い)になる可能性が非常に高いのです。ごく一部の企業は利益を出すことができ成功を享受できます。が、追随する多くの企業は、多大な投資をしても回収できず、赤字のまま結局は撤退していくということになりやすいのです。
つまり、以上に述べたような方法で「未来の有望市場探し」をしても、それは潜在市場ではなく、誰からも見える“顕在市場探し”ということになります。
では、未来の有望市場で成功するためにはどうすべきでしょうか?
私は3つのポイントを挙げます。これらすべてを充たすことができれば成功すると言えるでしょう。
1.他社よりも早く真の有望市場を見つけて参入することです。
どうやって、真の有望市場を見つけるべきでしょうか?
その一つが前回述べた「ニーズスパイラル」という方法を使うことです。
未来の未充足の強いニーズを見つける方法として、前回ご紹介しましたよね。
この方法を使えば、他社が気づいていない潜在的なニーズを見つけることができ、そうしたニーズに応える事業化をいち早く推進していくことが可能になります。できるだけ未充足度を高めることも重要です。未充足度を高めるというのは、独自性をより一層高めることです。より“尖った”事業となります。
未来の有望市場探しの方法は「ニーズスパイラル」しかない、とは言えないと思いますが、とても有効な方法です。
ただ、独自性を高めた“尖った”事業であっても、後から他社が参入してくる可能性はあります。それを見越して、次のことが必要になります。
2.参入する際には、その事業(商品やサービス)と自社のブランド名とがセットで記憶されるよう、世の人々に刷り込みを図ることです。
「〇〇事業(商品やサービス)と言えば、××(わが社のブランド名)」という連想が生じる状態をいち早く作ることです。
お客様の心の中に、早く飛び込んだ方が優位になります。
名前を早く広く知られるようになり、その名前から事業が連想されることにより、ブランド名が信頼感・安心感のイメージを持つことになります。
3.もう一つは、他社から参入されにくい状態、参入障壁を作ることです。
このことは2で述べたブランドイメージをいち早く作ることとも繋がりますが、ここでは主に特許によって、他社が参入しづらい状態にしておく、ということを挙げます。
これら3つを全て充たすことが、未来の有望市場で成功する秘訣と言えます。
3つとも充たすことは簡単とは言えません。でも、他社の動向を見ながら遅れて参入して、大きな赤字を出しながら撤退していく、ということを避けるためには挑戦すべきことと思います。
まずは、「ニーズスパイラル」という手法によって、未来の潜在的なニーズを探ることから始めてみませんか?
私がソニーにいた頃にこの手法に出会っていたならば、私の「未来の有望市場探し」は挫折しなかったと思います。