ビールは味か?イメージか?
私はビールが大好きです。
そのビールに関連して、以前、こんな議論をしている光景を見たことがあります。
「消費者はビールをイメージで選んでいる」という意見に対して、「いや、消費者は味で選んでいる」というやりとりです。
前者は、あるビールメーカーの部長さんで、今一つ市場シェアは高くないとのことですが、味には絶対の自信を持っている方です。
そのため、「消費者は味ではなく、イメージで選んでいる」との思いを強く持っておられました。
とても美味しい味のビールを作っているのに、それを消費者がわからず、昔から蓄積されたブランドのイメージに振り回されている、と嘆いているご様子です。
後者は、市場調査会社の幹部の方で、消費者は実際に飲んだ印象で「〇〇ビールは▽▽という濃い味がして好きだ」とか、「××ブランドのビールは水っぽくて好きになれない」などと味を語っている、というのがその理由でした。
私は、どちらの意見も、ある意味では正しいと思います。
消費者がビールを飲むときには、いわば、ネーミングもパッケージも広告も、またブランド名や企業名、そして過去から蓄積されたイメージも、中味と共に飲み込んで味を知覚するのでしょう。
だから、消費者は「味で選んでいる」「美味しさで選んでいる」と語ります。しかし、その味はイメージなどにも影響されて感じる味だと言うことができます。
同じ中味でも、黒い缶で飲む場合と、水色の缶で飲む場合とでは、おそらく黒色で飲む方が苦さを感じやすい、と思います。
このような現象は、ビール以外の食品でも容器デザインのリニューアルで起こりやすいことがあります。
幼い頃からなじんできたデザインの容器で食べるのと、中味は全く同じでも、リニューアルを行った斬新な容器デザインで食べるのとでは、感じ方が大きく異なることがあります。
前者では、安心感を覚えたり、幼い頃の母親の思い出を意識したりするのに対し、後者では、そのような気持ちが生じない等ということがあります。
ビールの話に戻ります。
製品の開発中には、ブランド非明示で調査対象者に試飲をしてもらうことがあります。
つまり、中味だけを評価してもらう方法です。
これは中味開発において、重要な調査の一つではあります。
しかし、市場で消費者からどのような評価を受けるか、については、中味に対して、パッケージやネーミングなどがどのような印象を与えるか、ということも考慮に入れる必要があるのです。
広告や、そのブランドにまつわる体験など、記憶されてきたことが、ビールを飲むときの人の五感と交わって味覚評価になると言えます。
五感とは、いうまでもなく、味覚以外に、視覚(パッケージデザインや液体を見る)、嗅覚(香りをかぐ)、触覚(これは、口やのどに感じる冷たさやピリピリした刺激など)、そして聴覚も関係している可能性があります。缶や瓶をあけたときの音や、グラスに注いだ時のシュワシュワした音などです。
きっとビールメーカーさんでは、そのあたりの研究を沢山してきたことと思います。
ブランドイメージが、消費者の味覚評価にどのような影響を与えるか、ということも重要な研究テーマですよね。